平凡な、幸せだったはずの日常が少しずつ、狂ってく。
でも俺は、お母さんは帰ってくるって信じてた。
またあの楽しい日々に戻れるって信じて待ってた。
壊れた日常から目をそらして、掃除も洗濯も勉強も運動も、お母さんが帰ってきたら褒めてもらうために頑張った。
でも、お母さんは全然帰ってこなくて。
お母さんが帰ってくると信じていた心も、だんだんと折れてった。
…俺は、捨てられたのかな。
そう思いかけていたとき、家にお母さんが突然戻ってきた。
────お母さんが、バイバイ、そう言って出て行ってから丁度一年経った時だった。
嬉しくて俺は抱きついたけど。
お母さんの手の中の紙に顔から表情が消えた。
その紙は、テレビで見たことがあるから知っている。
『お母さん、離婚するのかよっ…?』
呟いた俺を見て、お母さんは寂しそうに笑った。
──意味、わかんねぇよ。
『なんで、悲しそうにするくせに、離婚なんてすんだよ…』
『…茜』
『寂しそうに笑うくらいなら、しなけりゃいいだろっ…!それともその顔は同情かよ!?』
『……』
『なぁ、何が不満だったんだよお母さん。おれ、なんかした──…?』
そう言った俺に、お母さんは色素の薄い髪をサラサラと揺らして首を振った。