俺にとっては、そこに家族がいれば。
家族がいてくれれば。
別にもう、なんでもよかったんだ。
───でもきっと、そう感じていたのは俺だけ。
何がいけなかったんだろうな。
俺がなんか悪いことしたのかな。
お父さんに何か不満があったのかな。
何だろう、わかんねぇよ。
裏の、隅の隅。
俺の見えないところから。
静かに、でも確実に、その平凡な幸せは音を立てて崩れていっていた。
俺は気付かなくて。
ぜんぜん気付かなくて。
気づいたときには、手遅れ。
────小学3年の、夏の終わり。
お母さんは知らない男と家を出た。
最初は誰だあの男くらいにしか思わなかった。
バイバイ、そう言って家を出たお母さんはすぐに帰ってくると思ってた。
でも、それから何日も、何ヶ月もお母さんは帰ってはこなかった。
お母さんが帰ってこない日にちが増えるのに比例するように、お父さんは仕事にのめり込んでく。
お父さんが作っておいたご飯を、温めて一人で食べる、そんな毎日。
この間まで、家族3人で楽しく食べてたはずなのにな。