何で茜が不機嫌だった理由をちゃんと聞かなかった?


何で、何でもなかったなんて思ったの?



聞いてれば、茜の心をちょっとは軽くして上げられてたはずなのに。




こんなに荒れるのを、────こんなに悲しそうな真っ黒な瞳をするのを、止められたかもしれないのに。




大バカだ、私。



茜の悲しそうな瞳に。

能天気だった自分への怒りに。



喉が焼けるように熱くなって、奥から透明のものが込み上げて視界が歪んだ。




「あかねっ、お願い、…っねがいだから、普段通りに戻って……。茜っ…!」



腕を精一杯の力で引っ張るけど、ダメで。


私は茜の顔を両手で挟んで、グイッと私の方に向かせた。



視界は涙で歪むけど、今度はちゃんと、茜と目が合った。



茜の目が我に返ったように見開かれて、茜が首元を掴んでいた気絶している男が、下にドサリと落ちる。




よかった、戻った、茜だ。


安心して、ほっと息が漏れる。

そして私の強張っていた顔が緩んだ。



「あか……」


でも、話しかけようとしてそこまで言葉を発したのに。


茜はフイッと私から目をそらして、私に背を向けた。



「…ワリ」


そしてそのまま、ぼそりとそんなことを呟いて公園の外に歩いて行ってしまう。



止めなきゃ、引き止めなきゃ。

ちゃんと、なんで不機嫌なのか聞こう。

なんで荒れてたのか聞こう。





────そう、思ってるのに。


茜が私から目線を反らす時に見せた、酷く哀しそうな瞳が頭に焼きついて。



私はその場から一歩も動けなかった。