目線を手に落としたまま、声をなんとか出して返事をする。
「…っ、うん」
「日向、日向…」
お母さんの手が、ふわりと私の頬に触れて。
びくりとして顔を上げた。
でも、ほんの少し過去を思い出して力が入った肩は、すぐにフッと緩んだ。
だって。
お母さんの手が、昔と一緒だったから。
だって。
お母さんが、嬉しそうに目を細めて涙をこぼすから。
喉が焼けるように熱くなる。
目の奥が焼けるように痛くなる。
私の顔がきゅっと歪んで、目から涙がこぼれて、口が震えた。
「っ、」
「きてくれて、ありがとうっ…」
「うん…っ」
頬に触れた手が、私の涙を拭う。
ねぇお母さん。
私、ちょっとしわが増えたとしてもね、きっと間違わないよこの手は。
見えてなくたって、触れられたらちゃんとわかる。
だって、お母さんの手だもん。
わかるよ。
お母さん。
お母さんだ。
過去のことは全部違ったんだって教えてもらったけど。
会ったら絶対に取り乱しちゃうと思ってた。
だからなかなか会いに来れなかった。
海でのことは、やっぱりトラウマだったから。
でも、違った。
──────会ったら、ありえないほどホッとして。



