カラカラカラ…、小さい音を立てて開いていく扉。
開いた隙間から射し込んだ茜色の光が、手に持った花と、私の頭に光るピンをキラキラと輝かせる。
足に力を入れて、私は一歩病室へ踏み出した。
震える足で、でも、絞り出すように声を出す。
「………お母さん」
窓の外を見ていた、その人────お母さん。
茜色の光に包まれた病室の中で、お母さんがゆっくり振り返った。
お母さんの、腰まである黒のストレートヘアーがさらりとゆれる。
お母さんが、こっちを向いた。
……やっぱりお母さん、老けたなぁ。
どれくらい、会ってなかったんだっけ。
いつから、会ってなかったんだっけ。
お母さんと目線が絡まる。
この間みたいに取り乱さずに、お母さんとちゃんと目を合わせることができたけど。
目に涙を溜めて優しく細めたお母さんに、私の目の奥も熱くなった。
後ろ手に扉を閉めながら、私は震える足でお母さんのところまで歩いていく。
そして、ベッドの近くに置いてあった椅子にぎこちなく座った。
目線を、お母さんに戻せなくて。
膝上に乗った手元に落とす。
長い、長い、沈黙が続いて。
茜色の光が薄まってきた頃。
「日向…2ヶ月ぶり…くらいかな?」
お母さんが口を開いた。



