一回、深呼吸をして。
私は履いていたビーサンを脱ぎ、砂浜に素足で踏み込んだ。
────懐かしい。
火傷しそうなくらいの熱さも、足の指と指の間に入ってくる感覚も、全部。
全部が懐かしい。
不思議と、頭の中に浮かんだのは忘れたい消したい過去じゃなくて。
トラウマが大きすぎて消えていた、忘れていた、楽しい過去だった。
この砂浜じゃないけど、小さい頃友達とたくさん砂浜で遊んだんだ、そういえば。
生まれてから、“あのこと”が起こる───小4まで。
──私、海が、大好きだったんだよ。
大好きだった。
なんでこんなに楽しい記憶を消しちゃってたんだろう。
なんで忘れちゃってたんだろう。
でも私────今日、海にこれてよかったかもしれない。
海に入るのはまだ無理かもしれないけど。
海に対しての恐怖心が、ほんの少し和らいだ気がした。



