「やっべー!!!海みえたー!!!」
「っ、」
前の方で叫んだ誰かの声が、私の耳まで届いてきて。
私は無意識のうちに眉と口に力を込めた。
茜がなんでちょっかいをだしてきたのかは知らないけど、『イライラをぶつけたいなら』この台詞は、私には言えなかったな、なんて思う。
だって、茜のムカつく発言に対する私の強めの返事は、茜に対してのイライラじゃないものまで入っていた。
焦って、大丈夫って言い聞かせてはみるけど、心に余裕がない、イライラ。
それを茜に少しぶつけてしまった。自分で言っておきながら。
ごめん、謝ろうとしていつの間にか俯いてた顔を上げたら、不意打ちで、眉間をトンと押された。
突然のことに、「わっ」なんて声を漏らして、強張っていた顔の力が抜ける。
「イライラしてんのはお互い様だな。お前に何があんのかは知んねぇけど、そんな、思いつめた顔してんなよ。……いつにもましてブサイクに見える」
そう言って、前を歩いて言ってしまった茜に、私の心臓はキュッと締め付けられた。
──そうだった、何考えてんだ私は。茜はイライラしてるからって、無条件にちょっかいだしてきたりはしないじゃん。
ぜんぶ、私の強張った顔をなおす為にやってくれてた。
茜は、なんでか知らないけどあんなに不機嫌なのに。
それでも周りが見えてるんだ。
…すごいなぁ。



