…そこにいたのは、茜のお父さん。





「親父…」



茜がぽつりと呟いたその声は、昨日の夜みたいな憎しみのこもった声じゃなくて、何か言いたげな感じで少し安心した。



遠くにいた茜のお父さんは、私たちの方に早足に近づいてくる。



そして、緊張したように身構える茜に向かって優しく笑顔を向けた。



突然の豹変ぶりに、ぽかんと口を開けてしまったのは私だけではないようで。



茜も口が間抜けに開いていた。




べ、別に、いきなり無理して態度かえろなんて私言ってないし言わないよ!?



なにこの変わりよう…!!




…でも、これが茜のお父さんなりの今できる精一杯の愛情表現なのかな。


そうだったら、ちょっと嬉しいな。





「茜、また来い」



久しぶりに素直に会話するのが照れ臭いのか、はにかみながらそう言った茜のお父さん。



それに続けて、「気が向いたらまた、海で遊ぼうな」そう言った。





その言葉に、茜の腕はピクリと反応する。



でも、何も言わず他の方向を向いているだけで。




無言の間がちょっと続いて、せっかく仲直りできるチャンスなのに、なんて不安になる。


キュッと茜の服の裾を引っ張ると、茜は分かってると言うように振り向く。



そして一呼吸置いて口を開いた。