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どれほどの時間満月を見ていたのだろうか。


ユラユラと大きく前後に揺れていたブランコは再び元の位置へと戻り、定位置で小さく揺れていた。


戻っていた事にも気付かないほど満月に魅せられていた自分に思わず苦笑する。

それでも満月から目を離せなかった。




だから気付かなかったんだ。


すぐ近くまで来ていた漆黒の影を───…










「──オイ」



突然鼓膜に触れた声に、ビクリ、身体が揺れた。



だ、誰……?



男の人特有の低音ボイスに恐る恐る振り向けば、そこにいたのは長身の男の人で。

あたしが振り向くのを待っていたのか、男の人はあたしが振り向いた途端こちらへと歩いてきた。



ポケットに両手を突っ込みながら一歩一歩、地面をゆっくりと踏みしめながら歩いてくる男の人。


ほのかに照らされている電灯の光りのせいなのか、その男の人の姿は真っ黒な影にしか見えなくて自然と警戒心が強まっていく。