十夜……。


ギュッと強く服を握れば、それと同じ様に強く抱き締め返してくれて。

十夜の温かい体温と甘い香りが、昂った心を落ち着かせてくれる。


「……っ、十夜……」


自然と十夜の背中に回る両腕。

抱き着くなんて普段のあたしには考えられない行動だけど。

でも、今は十夜を力一杯抱き締めたいと思った。


あたしに“泣け”と言ってくれたこの人を。

心配してくれるこの人を。


力一杯抱き締めたいと思った。




好きになっちゃいけないと分かっているのに、そう思えば思うほど惹かれていくのは何故なんだろう。


獅鷹と揉め事が起こったら辛くなるのは自分だと分かっているのに。


どうしたらこの想いは消えてくれるのだろう……。



「──凛音、ゆっくり休め」



……ううん。

心の中ではもう分かっていた。

この想いはもう消えることはないと。


膨らんでいくことはあっても消えることはないと、そう、確信していた。






その想いが、まさかみんなを哀しませる事になるだなんて、この時のあたしは知る由もなかった。