──駄目だ。落ちる。
そう思って目を瞑ると、
「……っ、」
身体に受けた衝撃は、想像していたものとは全く違うものだった。
「──大丈夫か?」
不意に届いたその声に目を開ければ、視界に映ったのは打ち付ける筈だった階段で。
直ぐ様上半身を起こすと、前髪から微かに覗く漆黒の瞳と視線がかち合った。
「十夜!?ご、ごめん!」
どうやら先に階段を下りていた十夜が落ちそうになったあたしを受け止めてくれたらしい。
どうりで衝撃が少ない訳だ。
良かった。十夜が居なかったら階段転げ落ちるところだったよ。
……って違う違う!呑気に安心してる場合じゃなかった。
あたし、まだ十夜に抱っこされたままだ!
「と、十夜?ありがと。もう大丈夫だから下ろして?」
今更だけど、この体勢って結構恥ずかしかったりする。
だって、すっごい密着してるし。目の前に十夜の綺麗なお顔があるし。
こんなに近かったらって、ちょ、なにっ……!?
離してくれるものだとばかり思っていたあたしは、次に起こした十夜の行動に驚愕した。
「え?え?えっ!?ちょ…、十夜!?降ろしてってば!」
何故か抱え直してあたしを抱っこしたまま階段を下りて行く十夜。
まさに早業とも呼べるその動作に、あたしは抱えられたまま何も出来ず、されるがまま。
ちょっ、有り得ないって!
なんであたし十夜に抱っこされてんの!?
あたしすっごい重たいのに!
「十夜!恥ずかしいから下ろして!」
頭一個分高い位置から見下ろす十夜はいつもより近くて。
その麗しすぎるお顔に心臓が有り得ないほど高鳴った。
恥ずかしいやら何やらで軽くパニック状態のあたし。
けれど、十夜はそんなあたしの気持ちなんてお構いなしに歩みを進めている。


