天翔ける君




「ごめんね、山吹さん。山吹さんだって不安だよね」

恵都は山吹の出してくれた湯呑を握りしめた。
まだひと口も飲んでいないのに、すっかり冷めてしまっている。

「オレは、まぁ、慣れてるしね。――巻き込んじゃってごめんね」

山吹は申し訳なさそうに首を垂れた。
恵都は慌てて両手を振る。

「なんで山吹さんが謝るの。ここで生きるって決めたのは私だもん。早く慣れなくちゃ、ね」

なんとか口角を上げてみるものの、恵都の不安が治まることはない。

「そういえば、夜鬼っていうのは誰なの?」

「あぁ、夜鬼っていうのは――」

山吹を遮るように、門を叩く音が聞こえた。
ドンドンと、いつになく激しい。

「見てくる」

と山吹が立ち上がった。


恵都は門に近い縁側に出て、こっそりと様子を窺った。

怒鳴り声が聞こえる。
暗いのと雨で視界が悪く、姿までは見えない。
数人が何事かを山吹に訴えているのは分かった。