――やっぱり、言わなければよかった。
言ったって、千鬼を困らせるだけなのに。
それでも、千鬼のおかげで気持ちが変わったことを知っておいてほしかった。
だからどうか、辛い顔をしないで。
千鬼は優しい。
いつも恵都の心を温かくする。
人間の文化に興味があって、まるで子供みたいに質問を繰り返す。
素っ気ないのに、いつだって恵都を気にかけてくれた。
千鬼の隣で見上げた月の美しさは恵都の瞼に焼きついていて、きっと死ぬ瞬間に思い出すんじゃないかと思う。
でも、鬼だ。
人間を食う。
決して相容れることのない存在だ。
あの夜にどうして山にいたのかだって、なんのために人間界にいたのかだって、ちょっと考えれば答えは出る。
「ごめんね。変なこと言って、ごめんね」
恵都は繰り返し謝る。
いつの間にか溢れた涙が止まらない。
――せっかくあの着物が届いたのに。
あれを着られる日を今日か明日かと楽しみにしていたのに。
