「そんなのまで付けるの?」
いくら治安が悪いといっても、やりすぎな気がする。
恵都は内心こっそりと首を傾げた。
「これは防具の役割というよりも、礼儀に近い。外に出るには顔を隠すのが普通だ」
そう言って、千鬼は恵都に羽織をかぶせた。
「ふぅん。妖界のしきたりってやつだね」
些細な違いに驚きながら、恵都は初めて屋敷の外に足を踏み出した。
妖たちの町は、恵都が想像していたよりも普通だった。
もちろん、過剰な武装や皆が皆お面を付けていることを除けば、だ。
千鬼の屋敷のように暗闇ではなく、明かりの灯っている店が多い。
とはいえ、それは蝋燭や提灯のようなものは少なく、人魂のようにふわふわと宙を浮かんでいる。
山吹いわく、鬼火や狐火の類だという。
他の店よりも自分の店を目立たせるためだそうで、人間界のネオンの役割を果たしているようだ。
その雰囲気はまるで縁日のようで、恵都は少なからず心躍らせた。
町人の姿もいかにも人外だというような異形の者はいない。
