「それからオレのことは千鬼と呼べばいい。まどろっこしい敬称はいらない」
千鬼は珍しく薄く笑って、恵都の頭を一度だけ撫でた。
千鬼は妖で、しかも人間を食う恐ろしい鬼だ。
恵都を屋敷に連れ帰ったのだって食うためだ。
しかしそれでも恵都にとっては優しい存在だった。
千鬼の人間界に対する興味が失せるまで。
もしくは、恵都が質問に答えられなくなるまで。
それまで恵都はこの屋敷の一員で、彼らは同等に扱ってくれる。
――よかった。
食われる前のほんのひと時でも、母と暮らした頃のように安らげて。
父に引き取られてからの生活で、生まれてこなければよかったのだと何度も思った。
先に逝ってしまった母をなじったりもした。
でも、今は違う。
人間ではないけれど、食われる日は近いかもしれないけれど、ここにいればいいと言ってくれる人がいる。
