天翔ける君




もう瞳は赤くない。
妖が変化するのは気持ちが昂った時だと山吹に聞いて知っている。

「まだお前を食いたくない」

なんで、と問おうとする恵都を遮って、千鬼は続ける。
その顔は涼やかで表情は読み取れない。

「オレは人間の文化に興味がある。だからお前からもっと話を聞きたい」

「いつになったら食べてくれるの?」

「いつとは言えないが、もう少し話を聞かせてくれないか」

言いつのろうとする恵都を千鬼がもう一度抱きしめた。

「オレがお前を食うその日まで、ここにいればいい」

抱きしめる腕にぎゅっと力を込められて、恵都は口を閉じた。

変化していない時の千鬼の体温は低い。
泣きはらした恵都にはちょうどいい。

「オレが食うまでここにいろ」

言っていることとは裏腹の優しい声に、恵都は気が抜けたのか眠ってしまった。

恵都は母を亡くしてから、初めて熟睡した。