天翔ける君




恵都は母子家庭だったが、それに不満はなかった。

学校から帰ると一人の家は寂しく思う時もあったが、仕事に打ち込む母はそれ以上に恵都の自慢だった。
どんなに疲れても笑顔でただいまを言う母に夕食を作って待っているのが楽しみだった。

それを応援してあげられなかった父には会いたいとすら思わなかった。


その母が死んだ。

事故だった。
あまりにも唐突だった。

いってきますと笑顔で家を出たきり、母は帰らぬ人となった。
仕事も子育ても全力で取り組む母の死は、あまりにあっけなかった。

いったい何が起こったのか分からなかった。
混乱して、冷たくてもう笑うことのない母に縋り付いて泣くこともできなかった。

ある日突然、恵都はひとりぼっちになった。


誰が知らせたのか分からないが、母の葬式に父はやってきた。
記憶のない恵都にとって初めての対面だった。

父はうちで引き取ると言って、あっさりと母方の親戚と話をつけた。
高校一年生の恵都はそれに従う以外の選択を知らなかった。