「人間ごときが!お前のせいで千鬼は――」
「嵐!」
恵都につかみかかろうとする嵐の腕を、柊が食い止めた。
「なんだよ柊まで!こんな人間に気ぃつかって笑ってさ!山吹だってこんな奴のために命捨てようとして、馬鹿みたいだ!」
嵐は恵都を憎々しげに睨みつけた。
獣のうなり声のように喉が鳴っている。
嵐は柊の腕を振り払い、転がった面頬を拾い上げると、荒々しく襖を開け放った。
そのまま部屋を出て行ってしまい、少しして雷鳴が聞こえた。
それも徐々に遠ざかっていく。
「子供でしょう?」と柊は呆れたようにため息を吐いた。
それに恵都は横に首を振って否定した。
当然だと思ったのだ。
恵都が自分に対して思っていることと、嵐が恵都に言ったことはほとんど一緒だったから。
「頭が冷えたら戻ってくるでしょうから、恵都さんはどうかお気になさらず」
柊は穏やかな笑みを浮かべて、血のついた手拭いや必要なくなった桶をまとめて抱え、
「すぐに戻りますから、千鬼をお願いしますね」
と部屋を出ていった。
