千鬼はじっと恵都を見つめていた。
なにか言いたそうに、けれど躊躇しているように。
赤い瞳に、先ほどまでの鋭さはない。
悲しそうで苦しそうで、恵都は今すぐ駆け寄って抱きしめてあげられたらいいのに、と思った。
別れの言葉なんて聞きたくないのに、と恵都は一層身を強張らせた。
けれど千鬼の口からは予想とは違った言葉が飛び出した。
「夜鬼、お前には山吹たちの命や恵都よりも、もっとほしいものがあるだろう。それをくれてやるから、もう恵都たちには近づくな。不毛なことはもうやめてくれ」
「お前の苦しむ顔以外に、ほしいものなどないわ!」
答えた夜鬼は口の両端をつり上げ、憎々しげに笑ってみせた。
そうか、と一言つぶやいて、千鬼は腰の刀を引き抜いた。
いつも千鬼が持っている刀だ。
恵都がその刀身を見るのは初めてだった。
千鬼は抜いた刀を夜鬼には向けなかった。
もちろん山吹たちに向けることもない。
夜鬼の配下たちは警戒し、それぞれの武器に手をかける。
山吹たちにも千鬼がなにをするのか予想できないようで、戸惑っているのが見てとれる。
「なにを――」
夜鬼が問い終わる前に、千鬼は刀を自らの腹に突き刺した。
