自分が助かる代わりに、誰かが死ぬのなんて嫌だ。
そのために千鬼が誰かの命を奪うのも嫌だ。
噛みしめた唇から血が滲む。
力を入れすぎたみたいで、唇が切れてしまったようだ。
それに、千鬼に「ごめん」と言われるのも嫌だ。
きっと千鬼は仲間を殺すなんてできないし、恵都としてもそんなことしてほしくない。
でも、見捨てられるのも辛い。
それだったら、潔く自ら身を引くのが一番だ。
それがもっとも千鬼に負担をかけない選択でもある。
千鬼が助けにきてくれるのだけを心の支えに耐えてきた。
あの屋敷にもう帰ることはできないけれど、千鬼が助けにきてくれたことには違いない。
――それだけで十分じゃないか。
それにこれは恵都が自分で選んだ決断だ。
恵都は自分自身に言い聞かせるようにして、そっと顔を上げた。
千鬼の顔が見たかった。
もう最後かもしれない。
そう思うと、目に焼きつけておかなければ、きっと後悔する。
