「――恵都」
千鬼に名前を呼ばれて、恵都は反射的に駆け寄ろうとした。
けれど当然夜鬼はつかんだ手を離してはくれない。
「千鬼、千鬼」
恵都は小さく千鬼の名前を何度も呼んだ。
自然と涙が溢れてくる。
千鬼はやはり助けにきてくれた。
恵都は嬉しさに涙を止める努力すら忘れた。
「恵都ちゃん、遅くなってごめんね」
千鬼の後ろには山吹の姿もある。
他にふたり、――おそらく柊と嵐だろう。
あの黒髪と黄色の髪は矢文に包まれていたものとよく似ている。
「夜鬼、いい加減にしろ。恵都は関係ないだろう。帰してもらおうか」
面頬をしていても、千鬼の表情はよく分かった。
眼光鋭く夜鬼を睨みつける赤い瞳は怒りに満ちている。
「この人間は帰さん。もうオレのものだ。――ほら、オレが買い与えた着物もよく似合っているだろう?」
夜鬼に腰を引き寄せられ、体が密着した。
ひっと恵都は小さな悲鳴を上げた。
先ほど乱暴されかけたことがまざまざとよみがえり、恵都の体は強張った。
