天翔ける君





「もっと下世話に知りたがるかと思ったのだが。つまらん人間だ」

恵都は夜鬼を無視して箸を置いた。
いちいち反応して、この鬼を楽しませてやる必要はないのだ。

その代わりに心の中では、「ふざけるな、馬鹿じゃないの」と罵ってみる。
こっちはいきなりこんなことになって、怖くて必死で、それでもなんとかしようと必死なのに。

「そうむくれるな。――こちらへ来て酌をしろ」

小さく声を漏らして夜鬼が笑った。
その笑い方だけは千鬼と同じで、恵都はさみしさに喉を詰まらせた。

「……どうしたら、帰してくれるの?」

聞いても意味のないことだと、そんなことは恵都だって知っている。
けれどそれでも恵都は聞かずにはいられなかった。

帰りたい、帰りたい、と心が悲鳴を上げるのだ。

山吹とごはんを作って、他愛のない話をしながら三人で食べたい。
縁側でお茶を淹れて、月を眺め、千鬼の笑顔が見たい。
風に流れる美しい白髪に目を細めたい。

――千鬼に、会いたい。