「ここには奥田さんに連れて来てもらったんだよ」

「ええっ!?」

イメージできない。

奥田さんと言うと高級料亭とかで食事してそうな感じが……。

「トレーディングに失敗して客を怒らせてさ。その時、初めて来たんだ」

「へぇ~……。佐久間課長のようなベテランでも失敗するんですね」

「新人の時だよ」

課長がくぃっと杯を空ける。

「あの人、『鬼の奥田』って呼ばれてて、怒るとものすごい怖くてさ。

でも、ここに来たときは何も言わずにただずっと熱燗を2人で飲んだだけだったな。

その時、食べたおでんの味は今と変わらなくて……絶品だったよ、おばちゃん」

気を良くしたおばちゃんが、嬉しそうに「これは、私からのおごりね」と裏メニューの鶏たまご丼を出してくれる。



これも絶品で

アットホームで

ここに来て良かった。


カウンターから立ち上るおでんの湯気に

おばちゃんの笑顔に


今日の疲れが癒される。