「お前、鏡で顔見てから同じこと言えるか?」
そう言って総長室の鏡の前に立たせると、千夜はひきつった笑みを浮かべる。
大丈夫と言った割に、顔色が悪い。さっき出てきてすぐの時よりも、真っ青に見える。
「怖かっただろ」
抱きしめてぽんぽんと頭を撫でてやると、千夜は黙り込んで胸に顔をうずめてきた。
「昔……台風の日だったかな。
ママはお買い物に行ってて、パパはお仕事行ってて、家にひとりぼっちだったことがあって」
「ああ」
千夜の手がそっと背中に回るのを感じて、さらに強く抱きしめる。
苦しいよ、と言いながらも、その声はどことなく嬉しそうで。
「お留守番してたんだけど、途中で停電になっちゃったの。
冬だったから早い時間でも空が暗くて、真っ暗な中にひとりぼっちだったのが、いまだにちょっとトラウマで」
「………」
「狭いところとか、暗いところ……ちょっと怖いから」
素直に、怖いと言えばいいのに。
どこか遠慮する千夜と視線を交わらせると、母親譲りだと言うやわらかい髪を掻き上げ、唇を重ね合わせる。
「ん、」
まぶたを伏せる千夜が、愛おしい。
絶対に拒んでこない千夜に何度も口づけ、呼吸が乱れた千夜が限界を告げると、ゆっくり唇を離す。
「安心しろ。もうひとりにしない」



