「だけどな、識音」 耳元で聞こえる彼の声は、 いつだって私を安心させてくれる。 「愛してる」 「っ──」 「だから、」 彼が言葉を紡ぎかけて── 私が振り向いて抱きついたことで、口を閉ざす。 「ごめんなさいっ、」 「………」 「わがままで、ごめんね……っ。 ほんとは、」 言いかけた声は、彼の唇に塞がれて消えて。 「っ、」 後に残るのは、唇に淡い感触だけ。 なのに、その感触は私を焦らすみたいに消えてくれないから。