「あなた様は誠に賢いお方でございますね。」


婆は深い皺の刻まれた顔をほんの少しだけ緩め、そう呟いた。


「しかし、ハサンは堕天使。悪魔でございます。
お気をお許しにならぬよう。」


掠れた声を低くした婆は、自らの白く濁った瞳をナディアの碧色の瞳と重ねた。


「我が全ての力を使い切り、あなた様を遣わせます。どうかあなた様の御身が神に護られますように…ーーー。」


「え?」


婆がそう呟いたその時、ナディアの身体が柔らかい黄金の光に包まれた。


「婆!私に何をしたの!?」


金切り声に近い声を出すナディアの身体は指先から徐々に光に包まれて消えて行く。


「やだ…!何なの、これ!」


ナディアは恐怖に顔を歪め婆を見るが、老いた術者は今まで見たことのないような穏やかな笑みを浮かべているだけだ。

そんな笑みを某然と見つめていると、やがてこと切れるように婆はゆっくりと瞳を閉じた。


「婆!!!」


そう叫んだ瞬間、ナディアは眩い光に呑まれ記憶を手放した。