「皇女様。」


今にも絶えてしまいそうな掠れた声。


「婆(ばば)はもうすぐ息絶える身。どうか皇女様のお力でこの国をお救いくだされ。」


老婆独特のガラガラとした濁声が淀んだ空気をさらに淀ませる。


薄暗い部屋の中は、日光を完全に遮断しているため砂漠の暑さが及ばない。

そのため洞窟の中のような湿った冷たさが部屋を包み込んでいる。


「私には無理だわ…。
カーディル荒野に行くなんて嫌よ。」


カーディル荒野はマンスール帝国の端にある荒れ果てた地。

一度立ち入ると何人も戻っては来られないと言う、死の荒野なのだ。

そこに行けと、目の前の老婆はナディアに言う。
仮にもこのマンスール帝国の皇女である、ナディアにだ。