わたしは携帯を取り出した。


でも、ケンちゃんはハッとしたような顔をして

「あ! オレ、今、携帯持ってへんわぁ」

って、ジャージのポケット部分を服の上からパンパン叩く。


「じゃ、ちょっと待ってて」


鞄の中からスケッチブックを取り出して、最後のページをほんの少し破った。

そして、その切れ端に自分の携帯番号とアドレスを書いて、ケンちゃんに渡した。


「ハイ。どーぞ」


ケンちゃんはにっこり微笑むと、その紙をジャージのポケットにしまった。






帰り道、ふと足を止めた。


まだまだ陽が落ちるのが遅い、夏の夕暮れ。

だけど、確実に夏は終わろうとしている。


この時期。

毎年わたしは理由のない寂しさと焦燥感に襲われる。

夏の終わりに、誕生日を迎える。

子供の頃からなんとなく憧れていた17歳。

人生を季節に例えるなら、わたし達は今、夏の初めあたりに居るのかな。

だけどこうやって、何もしなくても起こらなくても日々は過ぎていき、夏もいつかは終わる。

いつまでも、10代が続くわけじゃないんだ。


急にドキドキして、家路を急いだ。


カナカナと鳴くヒグラシの声が、わたしをいっそう焦らせた。