「マ……マリちゃん。なんで? いつの間に来てたん?」


マリちゃんとは2年になって違うクラスになってしまったけど、同じ美術部なので、しょっちゅう顔を合わせている。


「ん? 進路相談があって、さっきまで職員室におってん」


「ふーん……。そうやったんやぁ」



蝉の声が静かな美術室に響き渡る。


夏休みの美術部の活動は基本的に週2日。

わたしは部員みんなが来る月曜と水曜は、以前から描いていた安佐川の風景画を描いて、誰も来ない日に1人で来ては、このシィ君の絵を描いていた。

だから、誰もこの絵の存在を知らない。


これを見たところで、シィ君を描いているとは、誰も気付かないとは思う。

一見この絵は単なる冬の中庭の景色にしか見えないからだ。

だけど、なんとなく恥ずかしくて誰にも見せたことがなかった。



「あ――。あづいいー! ちょっと休憩させてー!」


突然、静寂を打ち破るような大声が美術室に響いた。


窓からドカドカと男の子がふたり入ってくる。

シィ君とケンジ君だ。