『…そういうことか』


お兄さんは俺の話に笑うこともなく、どこか遠くを見つめていた。



『良之さ?
 お前の中に桜坂を受験するっていう選択肢はねぇの?』


お兄さんの言葉に、俺は目が飛び出しそうになった。


『…無理ですよ…俺の成績じゃ北陽に行くのだって瀬戸際なのに…桜坂なんて…』



『そうかな?』


『そうですよ…!』



『良之は考えかたがマイナス過ぎんだよ?
 本当に由莉のことを想ってるんならさ…由莉の気持ちを組んだ上での応援をするべきなんじゃねぇの?』


『…だから…夢を叶えて欲しくて…桜坂に行って欲しいって…』



『でもそれじゃ由莉は納得できなかった…
 由莉は良之の傍にいたいんだろ?
 お前は違うの?』


『…俺は…』


俺だって同じ学校がいい。

同じ学校の制服を着て、同じ電車に乗って登下校して、同じ時間を過ごしたい…よ。




『由莉は俺からも桜坂に行くよう説得する』


『……ありがとうございます…』



『でも、それは良之、お前が桜坂を受けることを決めたらだ』


『…え…?』



『本当に由莉のことが好きなら、由莉の傍に居てやって?
 アイツ、このままじゃ本当に壊れちゃうからさ…』


『…でも…俺の成績じゃ……』


絶対に無理なんですよ…


『結果が出てもいないのに、自分の限界を自分で決めてどうすんだよ?
 お前が桜坂を受けるって言ってくれたら、俺はお前を桜坂に絶対に合格させてやるよ』



『…え…』



『男としての頼み方じゃないことは重々承知してる。
 けど、もう由莉が泣く姿を見たくないんだよ…』



『だから良之が了承してくれれば、俺は絶対、桜坂に合格させてやる』



お兄さんの言葉になんと答えたらいいか…


俺なんかが桜坂なんて…



それに守達とも…




『せんせー』

振り返ると守たちが屋上入口の扉のとこに寄りかかって、こっちを見ている。



『…守…タケ…加藤…?』



『俺たちも桜坂挑戦したいでーす!』

守がそう叫んだ。


『俺が一番確率低いけど、でも俺も桜坂行きたいでーす!』

加藤も続いて、そう叫んだ。


『不純な動機かもしれないけど、彼女と離れ離れになっていらぬ心配するより、近くにいたいと思うんで、俺も桜坂行きます!』

タケも照れくさそうに、そう叫んだ。



『……え……』



『良之はー?』

守がそう叫ぶ。


俺は…


『俺ら、みんな桜坂行くけど、お前どうすんのー?』