『外野とか、加藤にそんな口叩くなよ!』


俺が怒りに震えて、そう言うと有村はまた鼻で笑った。



『由莉ちゃんがこんなバカに好意を持っているなんてな』


『まぁ…バカはバカといたほうが気が楽か…』



なんなんだ、こいつ…


『俺のことはバカって言われても許せるけどな…加藤のことまであんたに言われる筋合いはねぇよ!』

『良之』


守は止めに入る。

それに続いて、タケが俺の腕を引いた。


二人の行動に、俺は怒りに溢れている自分を沈めようとした。



『俺も中原くんの友達ごっこを笑いにきたわけじゃない。
 君から由莉ちゃんの手を離すように言いに来たんだ』


“友達ごっこ”のフレーズに沈めようとしていた怒りが溢れ出すとこだったが、その後の“俺から手を離す”のフレーズに眉を顰めた。



『中原くんは、どれだけ由莉ちゃんのことを知ってる?』


『…どういう意味?』


『由莉ちゃんが桜坂を志望したのは、あそこは成績優秀者のみ短期留学をさせたりと語学を学ぶのに力を入れてるからだよ』


『…語学?』


『由莉ちゃんは将来、世界中のおとぎ話や伝説を集めて、誰もが親しんで読める絵本を創るのが夢だからね』



有村から聞いて、俺は愕然とする。

たくさんメールしてきた中で知った彼女のプロフィール…

でもそれは彼女が生きてきた証であって、これからの彼女の生きていく路を俺に教えてくれるものではなかった。


知ってるつもりだった。
分かってるつもりだった。


でも、違った。


俺には知らないことが多すぎる。



『だから由莉ちゃんは、あの高校を第一志望校に考えた。
 自分の夢を叶える、最初の一歩となるよう動き出すはずだった』



『でも、彼女は突然、志望校を変更した』



『それも、その理由は“君”だ』



『恋人でもなんでもない“君”のそばにいたい、そんな理由で、そんなちっぽけな理由でこれからの人生や夢より、君がいるというだけの高校に行くんだ』



『俺なら、好きな女にそんなことはさせない』


“好きな女にそんなことさせない”

その言葉が俺の胸に突き刺さる。


勝手に彼女が志望校を変えた。


俺は嬉しかったよ。


だって同じ高校なら廊下ですれ違うことだって出来る、同じクラスになったり、隣の席になったり…


笑い合って、楽しい想い出を一緒に作り上げることが出来るって。




でも、


有村の言葉が正しい。