『良之』


タケと話している最中に、俺の耳に飛び込んできた、守の声。


え……


俺は声のした方、階下に視線を変える。

タケも声の方へと振り返る。


俺たちの行動と共に階下から姿を表す守。



『…守…』


時が止まった、でもすぐに俺の心臓の鼓動の速さに時が流れ始める、それも倍速かってくらいに。



『良之、由莉のこと好きって本当か?』


その問いかけに、タケとの会話を聞かれてしまった、それを全て悟った。


今まで見たことのない、鬼気迫るような顔をしている守。


もうどうしようもない、もう聞かれていて、誤魔化しようがない…



『……ごめ』


『謝んなよ、謝んなら最初から裏切んなよ』


守の冷たくて恐ろしい顔に、心臓を一突きするような勢いのある言葉。



『でも、お前が由莉を好きだとしても俺には関係ない』


何も言葉を発せない俺に、守はそう言った。



『良之、お前は俺の協力者って約束したよな?
 でも、こういう形で裏切った。
 お前がすぐに裏切るような人間だって由莉に話してもいい。
 そうしたら由莉はそういう人間は最低だって言うだろうな?』


…守…


『守!』


俺の代わりにタケが叫ぶ。



『タケ、お前本当にいい仕事をしてくれたよ。
 俺、ずっと良之の気持ちが知りたかったからさ、ちょうど本音が聞けて良かったよ、サンキューな』


『守…あのさ、俺、守の協力に徹すること、決めたから…だから…』


『良之、俺に謝る必要なんかないんだぜ?
 俺はお前のこういう性格を知ってて利用してるんだからさ』


『……え…?』



『由莉の気持ちを知ってから、ずっと、お前のその優しさを利用してんだから、俺。』



『…どういうこと、だよ…守?』

俺の代わりにタケが守に問いかける。


『由莉の気持ちならとっくに知ってたよ、俺?
 由莉が俺を好きにならないなら、由莉の好きな奴を由莉から永遠に遠ざければいい。
 そうすればいつか由莉は自分を想ってくれる人間と一緒にいたほうが幸せになれることに気付く。
 そのために、そうするために、由莉の好きな男、つまり良之、お前を俺の協力者にしたんだよ?
 そうすれば性格のいいお前は俺を裏切らない、そう分かっててお前を俺の味方にさせたんだよ、良之?』




………。


言葉が詰まる。


なんて言ったらいいのか分からない…


と、いうよりも守がそんなことを考えていて、そんなことをする奴だったなんて…

信じられない…

守の言葉にどう返していいか…



『けど、もう味方なんかになれないよな、協力者にさえ戻れないよな?
 だから宣戦布告する、由莉はお前には渡さない。』