良之がタケと席を交換した。
俺に何も言わず、振り返ることさえしないで良之はタケが座っていた席に座った。
隣はクラスの中でも地味な女、高杉だし。
かろうじて後ろにタケと仲が良く、良之と俺とも仲がいい、加藤がいる。
でもあの席のメリットが思い浮かばない。
『タケ、あいつなんか言ってた?』
俺は良之と入れ代わりで座るタケに尋ねる。
『なーんにも、てかなんなの?
お前らケンカでもしたの?』
意味分からない、と言わんばかりのタケ。
『‥そうじゃねぇんだけど‥』
思い当たる節がない。
『由莉?』
隣の瀬川が俺の愛しい子の名を呼ぶ。
俺はそれと同時に後ろの席の由莉の方へと振り返った。
前を見つめる、由莉。
世界の終わり、絶望の淵に立たされたとでも言うのか…
これ以上の表現が見つからない、でもいつになく悲しい顔をしていた。
『由莉、良之が良かった?』
聞きたくない。
“うん”って答えて欲しくない。
でも、俺の問いかけに心あらずの状態でも、由莉は素直に首を一度だけ縦に振った。
『…そっか』
かなりのダメージ。
最初から由莉の心には良之しかいないって分かってた。
それだけ由莉は一途に良之のことを見てた、想ってた。
俺なんかが由莉の心に入る隙間なんて一ミリさえなかった。
『…え、なんかごめん…』
多分一番気まずいのはここで謝ったタケ…
そうだよな、突然席を交換させられて、それですら状況把握出来てないはずなのに。
『いや…タケが悪いわけじゃないんだ』
俺がそう言うとタケは首を傾げた。
『…なんでもない、でもタケは何も悪くないから』
俺は黒板の方へと体制を変える。
良之の背中が視界に入る。
なぁ、お前、もしかして俺になんか隠してる?
もう由莉の気持ちとか聞いてんの?
そんで俺にどう言っていいか分からなくて、だから由莉から、というよりも俺から遠ざかるようにしたのか?
そしてお前も由莉のこと…
“好き”とか言うのか?