『良之……』
俺に気付いたのか守は俺の名を呼ぶ。
そして、遅れて俺の方に振り向く彼女…。
『由莉、もう泣き止んで?
もう先生来るから…』
瀬川の言葉通り、担任が気だるそうに教室に入ってきた。
『みんな、おはよー』
少し眠たそうな担任の言葉に、各々が挨拶をする。
『今日の二限の英語なんだけどな、鈴木先生が体調不良で休むらしいので自習だぞー』
『マジー自習とか楽で好きー』
『おいおい、お前ら一応は受験生なんだから、しっかり勉強に励めよ?』
『一応じゃ、ありませーん!!』
生徒と担任との掛け合いにみんな笑ってる。
『先生!』
俺はその中、手を挙げる。
『中原、どうした?』
『すみません、俺、やっぱり席替えてもらってもいいですか?』
『はぁ?席替えは昨日したばかりだぞ?』
『いやー勉強のしすぎで視力落ちたみたいで、一番後ろだと見にくくて。
昨日は目を細めて黒板見てたんですけど、疲れちゃうんで。
一番前の小島が変わってくれるらしいんで』
俺がそう言うと、前の席のたけが振り向く。
突然自分の名前が出されて驚いたんだろう。
すごい意表をつかれたような顔をしている。
『そうなのか、小島?』
今度は担任の視線と言葉にたけは目を泳がせている。
『え…あ…はぁ…』
どう答えていいか分からない様子のたけ。
マジ、ごめん…
俺は席を立ち、前へと歩いていく。
『たけ、さっきの休み時間に交換してくれるって言ってくれたじゃん?』
俺は何事もなかったように冷静に、そうたけに言う。
『は?』
たけは意味不明といわんばかりの顔をしていたが、俺はたけの腕を掴み、半ば強引にたけを立たせた。
『たけは視力、いいもんな』
そして俺はたけの席に何事もなかったように座った。
たけは何がなんだか分からないといった顔をしながら、俺の席の方へと歩いていく。
これでいい。
全部リセットする。
もう見ない、聞かない。
『中原、今度からはちゃんと見える位置で選べよ?』
そう言って、何事もなくホームルームが終わった。

