『良之、はよー』



眠たそうな顔をして守が教室に入ってくる。



『守、はよ』


守は鞄を机におろすと、大きな欠伸をする。



『寝不足?』

俺が質問すると、気持ち悪いくらいに守は笑い出す。



『違う違う、昨日電話してたの』


『電話で寝不足かよ…』


俺がそう言うと、守は俺の方に体を寄せて、

『相手、誰だと思う?』

そう尋ねてきた。



…いやな予感がした。


『もちろん、』

『…もちろん?』


守が次に口を開こうとした瞬間、


『あ、由莉、おはよ』


西山さんが現れて、守はそう彼女に言った。



……へ……?


今、


アイツ、じゃなくて…


“由莉”って呼んだ…?




『菅原くん、おはよ。
 それから中原くんもおはよ』


『由莉さ、昨日の電話で約束したじゃん。
 同じクラスの友達なんだから名前で呼び合おうって』


電話……


やっぱり電話の相手は彼女で、


『あ、うん…でもなんか恥ずかしくて』


『気にすんなよ、まぁ…由莉はそういうところが可愛いんだけど』


『そ、そんなことないよ』


『由莉は可愛いよ、なぁ?良之もそう思うだろう?』


突然振られ、“あぁ…”としか答えられなかった。



彼女は可愛いよ。

それは分かってるし…


てか…え、何?

この二人、数日前より仲良くなってない?

ちょっと前まではあまり話なんかできないような感じだったのに。



『ごめんね、こいつね、照れ屋だからそういう表現上手じゃないのよ』


守がそう言って笑った。


『あ…そんなこと』

彼女は片手を顔の前で勢いよく振った。



『でも、こいつ正直者だから、本当のことにしか返事しないから』


彼女が俺の顔に視線を向ける。

少し頬を赤く染めて…


『あ…うん…』

俺がそう答えると彼女は口元をほころばせた。