「トウヤ。
あたしのこと…覚えてる?」




名字はあの頃なかったけど。

凛という名前は、その時から一緒。

だってあたしは、養護施設の前に、凛と書かれた紙と一緒に置き去りにされたのだから。





「いや、覚えていないけど」

「……そっか」

「…凜、俺もしかして、凛と会ったことあるのか?」





演技に見えない。

…嘘じゃ、ない。

人が嘘をついているかどうかの見極め方は、“あの人”に教えてもらったから。

そういえば“あの人”、元気かな。

“あの人”はあたしのいた施設にいた、あたしよりも年上の人で。

名前は、覚えていなかったけど。

いつも…お兄さん、と呼んでいたから。

“あの人”はあたしや美愛に、色々なことを教えてくれた。





「あたし、前に…トウヤと同じ、額に傷を持つ男の子に会ったことあるんだ」

「そうなの、か?」

「うん」





それからあたしたちは、美愛たちが迎えに来るまで、ずっと黙り込んでいた。