頭が真っ白になる。

 「お前が言葉遣いを直したのも心を許していない相手に笑顔を見せるのも、俺のためなんだろう?」

 「……ええ、優しそうな口調と雰囲気の方がいろいろと女は都合がいいとあなたのお母様に言われたわ。だから一年かけて直したのだけれど…」

 「それだけじゃない、この世界についてたくさん調べていただろう。それに、裏社会で女が生き延びる術を身に付けた。まあ、もともと身に付いていたようなもんだったが…。会社の方も、お前がいるから助かってる」

 「そんなの、どうってこと…」

 「いや、本当だ。社長である俺を助けてくれるのは、秘書であるお前だ」

 「私を助けてくれた恩を返しているだけよ」

 「照れ隠しか?」

 「………………」

 顔が赤くなっていないといいのだけれど。

 「本当は、今すぐにでも籍を入れたい」

 「誰と」

 「カロッサに決まってるだろ」

 「…………」

 「けどな、お前、俺のことなんとも想ってないだろ?」

 「…想っているわ。あなたのそばにいると落ち着くし、あなたのことをいつも考えているし」

 怜は私を抱きしめる。

 突然のことで驚いたけれど、すぐに意識がはっきりする。

 「何しているの」

 「お前、今、ドキドキしてるか?」

 「逆に聞くけど、何でドキドキなんてするの?」

 私の言葉を聞いて、苦虫を噛み潰したような顔をする怜。

 「俺のことが好きじゃない証拠だ。それに、俺はお前のことを想っているからこそわかるんだよ。好きな女が誰を好きなのかくらい、わかる」

 「……私は誰が好きなの?」

 「誰も」

 「…………どういう意味よ」

 「お前の感情は誰にも向いてはいない」