願い事を一つだけ。【短編】

「ふぅん」


数秒間の沈黙の後、咲さんはそれしか言わなかった。

凜兄もドアにもたれたまま。


「馬鹿ね」


馬鹿…?


「…ど、どうしてですか!?咲さんも…っ、春美さんて人を蹴落とすとき同じことしたじゃないですか!!」


咲さんが前に、片想いをしていた幼なじみの透真さんの彼女を広範囲に広めたガセネタで孤立させた話をしてくれた。



出来事は全く違うが、情報の広め方も保身も咲さんと紙一重なはず。


「一緒にしないで頂けるかしら。私は春美さんを蹴落とすことを分かった上でしたのよ」


「私だって分かってます!」

「どこが?その後あなたに何かが降りかかるリスクは?部活で固まった人たちは、そう簡単に壊れたりしないわ。貴女は恥ずかしいだけでしょう?」


何が、だなんて分からないほど私も馬鹿じゃない。


騙されて本気になった自分が恥ずかしい、という気持ち。


「私はそれを把握した上でやったのよ。バレた時の揉み消し材料も十分にあったわ。…それに」


あぁもう聞きたくない。

私の馬鹿さ加減に嫌というほど気づかされた。


「カス男の彼女は貴女の友達でしょ、どうせ。その子に罪は無いわ。貴女はその子まで巻き添えにする気?」


ひぃちゃん。ひぃちゃんから笑顔が消える。


そして…消したのは、私。

「その子も大概辛いでしょうよ、浮気されて悪者扱いされて。同情票は総取りじゃなく、その子に行くわよ?部活の間中、貴女の罪悪感は消えないわ。ターゲットは一人に絞ることね」


「…馬鹿ですね、私」


咲さんと私が同じだなんて図々しい。


「あぁそれから。貴女そんな子じゃないんだから、無理してやらない方が良いわよ。今も泣いてるんだし」

え、と頬を触ると確かに濡れていた。