「ど、どうしたの?」

「寝てないのか?」

「え?」

あたしは目を見開いた。いつも通りに振る舞ったつもりだった、だから気づかれないと思っていたのに。

「体調も良くないんだろ、崩したんだろ」

「そ、そんなことないよ」

嫌だなあ、と笑いながら翔太の手を離す。

「由良」

「さあ、今日も仕事だよ、頑張ろう!」

気合を入れていると翔太が眉をひそめたまま「おい、由良」とまたあたしの名前を呼ぶ。

「話を聞けって、おい、由良」

「ほら、急ごう。姫様、朝は早いって晴人さんが言ってたよ!」

ほら、と笑うと、翔太は眉間にしわを寄せ溜息を吐いた。


「無理はするなよ」


頭にぽんと手を置くと「先行くぞ」と翔太は部屋を出て行った。

あたしはその後姿をずっと見ていた。

無理をするな、なんて翔太は言うけれど。


「誰のせいで、こうなったと思ってるの」


そんな言葉を呟いてみても、その声が届くわけはなかった。