いつもの戦いらしくないと、自分でも思う。けど。


「俺の任務は姫から魔物を守ることだ。方法は問わないとクリスさんからも言われている」


「だからって…」


兄としては弟が魔物を躊躇せず倒していくことがよほど悲しかったのだろう、苦しそうな表情を浮かべている。

兄は優しい。記憶の中の兄はいつだって優しくて、だけど心の強い憧れでもあった。


…あの日までは。


「俺が魔物退治屋"サファイア"の当主だ」


本当なら兄が魔物退治屋を継ぐはずだったと聞いた。

けれど俺が生まれたときにはすでに兄は城で仕えることに決めてしまったのだと聞いた。

反対されたようだけど、兄と同じくらいの魔力を持って生まれた俺がいたからそちらに継がせればよいと先代と両親が決めたそうだ。

俺はひどく兄を恨んだ。


兄は未来を選んだのだ、俺に全てを押し付けて。

俺には選ぶことすらできなかったのに。


「こんな倒し方、薄情者だと言われれたら反論はしない。自分でも思う。だけどお前には、お前にだけは言われたくない。

お前のような薄情者には言われる筋合いはない!」


"サファイア"の後継者になることを俺は選ぶことはできなかった。それが当然の道と思って生きていたから、選ぶという概念もなかった。

もちろん今は"サファイア"の当主でいることに責任も誇りも持っている。後悔なんて微塵もしていない。

こんなにもやりがいのある職業に就けることを幸運だとさえ思っている。


それでも、俺は兄を恨まずにはいられない。



「先代の死に目にも顔を合せなかった、お前には!」