「そ、そんなに怒らなくても良いでしょう?」

「怒ることです!怒らずにはいられないに決まっているでしょう!この緊急時に一体何をお考えなのです!」


晴人さんは痛烈に怒っていた。彼が怒る理由はあたし達にもよく分かった。

とんでもない魔力を持つ聖獣が解き放たれて暴走しているんだ。止めたくなる気持ちもよく分かる。


「だ、だって、最後に城下に行ったのはもう10年は昔のことですのよ?ずっと行きたいって思っていて、ようやく時間ができたというのに…」


姫は悲しそうだった。ずっと願っていたことだったんだろう。

何も、無理難題というわけではない。城下町に行く、そんなささやかな願いすら、もう10年も叶えられていないなんて。

あたしは拳をぎゅっと握りしめた。


「お許しいただけるなら、晴人さん」


一歩前に出て頭を下げる。


「城下町での姫の護衛、あたしにお任せいただけませんか」


周りにいる人の視線が一斉に向けられる。


「由良、様…」

晴人さんは困惑しているらしかった。


「由良、お前何言ってんのか分かってんのか?」


翔太は怒っていた。確かに、確実に、目の奥が怒っている。


「分かってる」


あたしはその目を真っ直ぐ見て答える。

分かってるよ、全部。纏わり付く危険も、起こりうることも。


「ただ、願いを叶えてあげたいんだよ」