凌哉side



カチ…

カチカチ…





さっきから何度リビングの壁掛け時計を見たんだろう。時計の針の音が耳について、なんかイライラする…



今日は俺の誕生日。16歳になった。

誕生日なんて基本どうでもいいし、張り切っているのは家族だけだ。だけど今年は違う。

今年は彼女と一緒に過ごせるんだ…



沙世が俺を祝ってくれるなんて、こんな嬉しいことはない。

だから予定よりも早く会って沙世の顔が見たかったのに、あいつは自分の友達を優先しやがった…

友達を大事にするのはいいことだけど、今日くらいはと思っていた俺は今ちょっとすねていた。




沙世の奴…

早く来ないかな…







「凌くーん、ちょっと~」

「あ?」


キッチンで料理を作っているお袋が俺を呼ぶ。俺はリビングのソファーに寝転がりながら、力ない返事をした。







「これ味見してよ」


エプロン姿のお袋が俺に近づいて言う。




「隆也にさせろよ」

「沙世ちゃんのお家の味ってどんな味かしら?これだと薄いかな?」

「…」


気乗りしなかった俺は急に乗り気になり、体を起こしてお袋が差し出した大きめのスプーンに入ったスープを手に取って口にした。






「…うーん…もうちょい塩だな」

「お塩ね、ありがとう!」


俺はお袋にスプーンを返して、ちょっといい気分になりながらまたソファーにごろ寝する。





沙世の家の味がわかるのって…なんか気分いいな。

あいつのことわかってるって感じがする…







「おばちゃん。これはここでいいの?」

「いいわよ」


キッチンでお袋と妃華が料理をする後ろ姿を見て、俺は妃華を沙世に移し替えて眺めていた。




沙世がお袋と馴染めば、俺んちであんなふうに料理作ってくれたりすんのかな?

それって…なんかもう嫁みたいだよな?







「凌哉兄ちゃん!一緒にトランプやろうぜ!」


リビングのフローリングでトランプで遊ぶ隆也と洋平に声をかけられる。







「いいよ」


俺はソファーからカバッと起き上がると、隆也と洋平の間の床にあぐらをかいて座った。






「兄ちゃん切ってくれる?」

「任せろ」


隆也からトランプを受け取る俺は、何回か切ったあとそれぞれに配り始める。





「凌哉兄ちゃんなんか嬉しそうだな。そりゃあ誕生日だもん、当たり前か」

「まあな」


洋平が機嫌がいい俺の様子に気づいたのか、顔を覗き込んで来た。


本当は嫁になった沙世を想像して気分が良くなっただけなんだけど、弟達の前では誕生日だからということにしておこう






「何やるんだ?」

「大富豪!」

「はいよ」


俺は弟達とトランプで遊び始めた。

だらだらしてても沙世とか時間が気になるだけだから、こうやって遊んでた方が気がまぎれていいかもしれないな…


それからついトランプに夢中になってしまった俺は、もう結構時間が経っていることに気が付いた。








「ちょっと休憩しようぜ」


キリがいいところで一旦トランプを 辞め、俺は固くなった体を伸ばした。






「隆ちゃんと洋平ちゃんお菓子でも食べるー?」


お袋がポップコーンの入ったボウルを持ってやってくる。






「うん!」

「ありがとございますー」