白衣の王子様





今日も何もしないうちに、気づけば優さんが帰宅する時刻となっていた。


「ただいまー」


私は「お帰りなさい」も言わずに、リビングのソファーの隅に膝を抱えて座ったまま。

リビングに入ってきた優さんは、


「ちょっと春依ちゃん、電気くらい点けなよ~。部屋が暗いと、気持ちまで暗くなっちゃうよ?」

と言って明かりを点けた。



「今日はお土産にケーキ買ってきたよ。これなら少しは食べられるんじゃないかな?」


まだ、何も食べたいと思わなくて、無言で首を横に振った。




「あったかい紅茶淹れるね」


……何も欲しくないのに。

優さんはテキパキと紅茶を淹れ、買ってきたケーキをお皿にのせてソファーの前のテーブルに置いた。


「春依ちゃんが好きそうないちごのムースを買ってきたんだ。はい、あーん」


フォークでムースを一口すくい、私の口の前に差し出された。

私はプイッと顔を逸らした。


「一口でいいから、ね?」


仕方なく、目の前のそれを口に含んだ。

美味しいはずなんだろうけど、別に美味しいなんて思わなかった。


そんな私に対して、優さんは無言のまま優しく頭を撫でてくれた。

優しくて温かい彼の手が、ほんの少しだけ心地いいと思えた……。