そうと決まれば用意である

人の食べ物は必要としないので旅に必要な物といえば、服とお金だけだ

服は、雑踏にまぎれるには、一番大事なようそであるが、難儀なことに、時代時代によって庶民が着ていいとされる色も違えば、そもそもの服の形もきかたも違う

田舎の方であれば、一昔前の着物をだらしなく着ていたとて目につかないが、都では一昔前の着物ではすこし悪目立ちをしてしまう

服装など化けるときに一緒に化けてしまえばいいという狐もいるが、化けるときや何に化けるかによって着物や小物を揃えるのも、また粋だと自分では思う

自分の現在の服装は道士の着るそでがだぶっとした道服であるので、楽ではあるがどこかまぬけにみえる

天狐の誇りにかけてもこれで外へ出るわけには行かない

たんすから着物を取り出す

地域によってだが私の持っている着物と今の時代の服装はあまり変わってはいないので助かったと思いながら服を選んでいく

すぐに部屋は様々時代のきものであふれかえった

季節は夏だったのでできるだけ薄いものがよいと思って選ぼうとするがたんすの中をさぐれば探るほど部屋が狭くなっていき、さんざん悪戦苦闘して選んだ結果いまの型にあったものは数枚しかないことに気づいた

しばらく、柄の大きな水色の波紋のきものと赤に大きなボタン柄のものを両手にうんうんうなっていたものの、最終的に赤い方をえらび今様に着る

髪はそのままでもよいが、とりあえずは、まとめて上にあげかんざしでとめる

久しぶりの身支度にしてはなかなかと鏡の前で確認をしていると、ふと剣が祭に行っていたことを思い出した

村にもう着いただろうか

私なら狐に戻ってひとっとびのところを人のように歩かせたのだが、剣だけあり身のこなしには私も驚かせるものがある

大陽たちょうど真上をとんでいた

あの身のこなしならもうそろそろ着く頃かもしれない

剣が山道を下る後ろ姿を思い出し、しかし彼ならば祭を精一杯楽しむのだろうと考え直す

私はああいったが、戻って来るのは夜がふけてからかもしれぬ

とはいえ、おちおちしてはいられない

祭から戻る前にすませることはたくさんあるので急がなくては

そんなことを考えつつ今度は持ち物を選んでいく

水筒、地図は鉄則だ




狐はもともと化けるのが得意である

二胡ならば詩人に化け薬を持てば薬師に武器を持てば用心棒になれる

もちろん、詩人に化けた狐が歌が必ずしもうまいということはなく、狐自信にその化けたものの才能があるかどうかは大切であるが




終わるともう外の空気は赤かった

岩山の向こうに沈もうとしている日が最後の力を振り絞って輝いているように見える

夕日が良く見える次の日は明日は晴れがおおいからきっと明日は晴れだろう

だが私には日が沈む前にしなくてはいけないことがある

太陽の沈む方向にれいをすると着物などをつめた荷物をまとめかたに担いだ

外に出て服ごと九尾のすがたになると、剣の向かった方向とは反対側、山の頂上のほうに四つ足で駆け出した