天狐空狐は悪さをしないといっても野狐などのせいで私たちの評判は悪いのだ

加えてこの間連絡係の彼女からきいたはなしによれば、どこかの九尾が調子にのって国をひとつ滅ぼさせたのだという

居場所が解れば一発殴ってやるのだが何時の事かも知れずらしい狐めがいやしないか目の届く範囲を日々いたづらに探しているものの、特にこれといったこともないのだった



「じゃあいってくるー」

「気をつけて」

どこか納得していない顔で出かけようとする男にひとつと声をかけるととたんに笑顔になった

はーいと返事をする

げんきがよろしいのはいいことだが

こいつちょろいと思ったのは内緒である


鞘と同じ様な模様の漢服の背中がてくてくと遠ざかっていく

華文に梅の帯

大切にされてきた故生まれた精霊だけあり着物の模様は豪華で職人の手がかかっていることが分かる

はで過ぎて私は好みではないのでべつに羨ましくはないが





彼も元はただの宝剣だった

昔の王朝の時代にうたれたそれがまつられていたところは王朝の滅亡とともに打ち捨てられ廃都となったが、西王母がさづけた帝の剣は未だ見つかっておらず、まだ次の持ち主をあの都で待ち、眠っているだろうと

正直ちょっと期待して行ったのだ

未だ噂でしか聞いたことのない女仙をたばねるという神様の由来の宝物

本で読んだ宝のありかを探してたどり着いたのは、切れ味の良い宝剣でなく俺可愛いなばかっこだったというわけだ

しゃべりはじめたのは私と出会うより前だったのできっかけは知らないが、東の祠にあったときには男のくせになよなよとしたあのせいかくだった



出会う前、私は切れ味のよい武器を探していただけだったので、精霊の気配ですぐ帰ろうと思っていた

同じ様なものを連れて歩く気はなかったし、自分ほど力のある物を側においても両刃の剣になりかねないからだ

だが、祠の様子をみて気が変わったのだ

祠の打ち捨てられた気配も色あせた日よけの布も、顔をみてやろうと思わせるには十分な品位気を持っていた



そんな剣は今

千里眼でみてみればなれたようすで岩をよけ着々と山をおりていた

道程は通そうなので目をつぶり焦点を目の前に戻す



またこの書物と二人きりになってしまった

つる草模様の表紙に、かろうじてもとのいろがわかる擦り切れかたをしており、ちょっとやそっとじゃこうはならないのが分かる

雑な扱われ方をされたか、長いこと使われてきたあかしである

あるいはそのどちらもだろうか