物思いにふけっていると外から自分を呼ぶ声が小屋に入って来たようだった

童の姿に化けた木の精が姿に似合った底抜けに明るい声で歌うように言う

「おはよう天狐様」

彼女は森にすむ妖で、私と会話できる数少ない人である

ここにすむ物たちは良くも悪くも内省的で、あまり他と関わろうとしない

他の妖と馴れ合おうとするのは少なく貴重であるからそこだけでは私は彼女を尊敬している

もちろん間違っても言ったりはしないが

彼女を横目で見ておはようと言葉を返す

かたで揃えた短い髪にくりりとした愛らしい目

幼い幼女に見えるがそれが借りの姿であることを私は知っている

本体は樹齢何百年であろうかという巨木である

だが見た目だけなら可愛い幼子だ

こちとて狐狸精で白い肌を何千年も保ってはいるものの、彼女には肌の美しさで負けている自信がある

「おはよう」

木の精はてくてくと駆け寄ってくると小首を傾げて手の中のものを覗き込む

「これは何ですか天狐様」

「知らないけど多分異国の書物」

「へえー」

「だって、文字がよめないのだ」

「へえーふーこれが異国のー蛇がのたうちまわってるような文字ですねえ」

童が面白そうに四角をいじくり回して印しの羅列に目を泊めた

「それよりどうした、森に何かあったか」

彼女(多分)が合いに来ることは珍しい事だった

よって、何か特筆することがあったのだろうとよそうする

天狐である自分と比べて木の精である彼女はほとんど接点がなく、気軽に合う間柄ではないし、木であるからしてそもそも人の姿はほとんどとることのない種族(?である

何かある時には森にすむ奴らとの連絡人になってくれるので重宝はしているのだが、そのたびに少し申し訳がない気持ちがするのだった