「あれは何と言うのだ?」

ところ変わって森でも今日うわさの皇子が来るという祭、歓迎祭のようなものが開催されている会場であたりを見回しながら早速私は感動した

千里眼で見るときとは違う目線であるからか、すべてが異なって見えるからだ

剣と落ち合って私も繰り出すことになった村の祭は大変な盛況ぶりで、私達は人混みに流されながら進む

道の両側には露店が並び、明かりをとるための提灯が屋台ごとに違っていた

色とりどりの光が頭上を照らし、背伸びしてみれば道をうめつくさんとする人の大波が、うねうねとみわたすかぎりのさき、大通りのみえなくなるまでつづくのだた

剣が私の着物のすそをつかむのをあたまの片隅で認識しつつも何もいわず、流れに足をとらわれながら、おもわず感嘆の声をもらす

私のはしゃぎっぷりに驚いたように剣は私の方を見た

「あの主」

そこで、かれこれ剣と人前で話すのが初めてだったと思い至る

「そうだ剣よ」

「、、、主よ何でしょうか」

「お主、なぜそんなに挙動不審なのだ」

「挙動不審、、、主がいいますか」

「私が?」

私が剣の方を向いて聞くと不機嫌そうに帰ってくる

「なんでもないしー」

口を尖らせながら

「それから、私のことは紅と呼ぶように
千里紅だ」

「はーい
そういや、主は人間のふりをするときはいつも同じ名前なんですかー?」

「いや
なぜそんなことを聞く」

「べつにーきになっただけですー
だってぇ、名は体を表すとか何とかかんとかー
あ、名前のこだわりとかは?」

「いや
気分だろうそんときの」

私の答えにふーんとつまないとでもいうように剣は顔をそむける

そして声をあげた

「ん」

「大きい天幕ですねー
いるのは?」

視線の先には派手な模様の天幕で、照らされた周囲は昼のような明るさである

天幕はちょうど桜の木陰に設置されていた

祭りの踊りや屋台が見える、すこし会場からは離れた場所である

どんな人が座っているだろうと数歩歩いてみれば、幾重に重ねられた敷物の上に誰かがのっていた

予想通りというべきか、いたのは見知った顔

豪華な天幕の内側には年端も行かぬ子供がひとり、酒の杯を前につまらなそうに座っているのだった