Book of the arabesque design

黒曜との会話はとどまることをしらずいつもながびいてしまう

世の娘どもの女子トークのような風味を帯びているものの黒曜は女子ではないし内容が内容だけに大きな声では言えないがくわえてしゃくだがおもしろい

結局伝え終わったのは紆余曲折をへて空が完全な暗闇につつまれたころでそれもたわいのない会話が間に挟まっていたのでいつのまにか断ったお茶も前におかれていたのは仕方のないである

目の前には茶器があり中には鮮やかにジャスミンの花が咲いていた

しかし、説明の時間を食ったわりに黒曜の反応はあっさりとしたものであった

「うんいいよ」

黒曜は言った

そして見ているとゆっくりとした動作で茶請けの月餅を口に頬張った

自分の分はとっくに食べてしまっていたので大皿の干しぶどうをつまむと口に放り込む

むしゃむしゃと咀嚼してから言葉を続けていく

「でもひとつ条件がある」

その言葉にくびをひねった

「君の力の一部をあずからせてもらう」

「空狐のようになるということか」

私の言葉にうなずいてゆっくりとした調子で肯定の意をしめすとか目の前の男はもう一度椅子に深く座りなおした

「そうだよ」

天狐であり九尾である私はいわば神の部下であり、自分の力にくわえて加護を与えられている

それをあずからせてもらうというのだ

すると自分本来の千里眼や気はつかえるままではあるが神からたまわった力はつかえなくなる

そして目の前にいるこいつが直接の上司というわけだ

つまり、首にするにしろ休暇という形で暇をあたえるにしろ、こいつの意のままというわけで、私は天狐としての力を使えない変わりに暇を与えられる、ということになりそうだということだ

もともとが弱いわけではないし、旅で諸国を回るためには充分過ぎるのだが、去った後が気になった

私が天狐を休んでいてはここら一帯の監視者がいなくなってしまう

「君のいうとおりここらは太平されたからね」

言葉はつづく

「もう監視なんていらないよ
君の思っていることは立派なことだと僕は思う
けど天狐のまま野放しにするわけにはいかない
僕の責任になってしまうからね」

悲しそうに言う言葉は嘘ではないのだろうがこちらもいってみれば足がなくなるとかそういう次元のことでありそうですかとはいかないのだった

「足がなくなるってわけでもないんだしすこし考えてみなよ
お茶いれなおすよ」

脳天気な様子でゆっくりと立ち上がると今度はさっきと異なる工芸茶を取り出す

私のさっきまで飲んでいたお茶は、手にとるともうさめていてぬるいお湯の中にジャスミンの花が浮いていた

ジャスミン、つまり神の贈り物である

それをもとから知っていて選んだのなら悪い冗談であると思う

「」