「いや、今日はお茶を飲んでいる時間はないんだ」

楼閣の中、客室と思しき場所にとおされ黒曜がいつものようにお茶のよういをし始めようとしたので私はあわてて遮った

「どうしたの?」

驚いた様子で顔をちら見つめた男は、しかしすぐに表面をもとにもどし、お茶のよういをつづけにもどってしまう

仕方なく椅子に深く座り治すと、黒曜が、手慣れたようすで湯を沸かし、思案顔で茶器を吟味する様子を見つめて口をひらいた

「今朝おかしなものをみたのだがさすがにおまえに言わずにおくことはできまいと思うてな」

黒曜は私の言葉にひとつうなずいた

「何か拾わなかった?」

「何かとは?」

背もたれにどっしりかまえてことばを返す

黒曜はちらりと横目でこちらを見ると、困ったように笑って肩をすくめて見せた

「今持っているね?」

見透かした様子で言われるのは気持ちのいいものではない

「見せる義務はないぞ」

「いいよ別に
何を拾ったかは知ってるんだ」

「ではやはりこれは」

「君が思っているのとは違うと思うよ」

「お主のような小僧と同じような頭はしてはいないぞ」

狐につままれるとはまさにこのこと

このろくでもない仙人は天界のために地上の薬草を無断で収穫するにくわえ考えがわからない

天界のことをさっきのごとくこばかにしたようにいってみることもあれば地上のことをよくいうわけでもなく、普通の人間のように過信や人間不振であるわけでもないらしい

「ごめんよ、怒らないで
天狐の考えを見透かすなんてできる事じゃないよ」

こわいこわいとわざとらしい仕種をするがそれでごまかされると思っているしこうのほうが恐ろしい

恐ろし過ぎて鳥肌が出るといえば

「狐なのに鳥肌
おもしろいね」

効果はなかった

「で、どういうことなんだ
天界の仙人様の思ったことというのは」

「仙人様じゃなくて名前で読んでくれないかい」

「嫌だといったら?」

「ちょっと君に教えてもいいかかんがえなおすかも」

それならば言葉に宿る力のひとつふたつくれてやってもよい

「分かったよ黒曜」

そういうと黒曜と呼ばれた男は微笑んだ