この場所は仙境と呼ばれているものの、ここの人の仙人を私は一人しか知らない

千里眼を持つ私がそうなのだからきっとそういうことである

しばらく木の間を走っていると楼閣が見えてきた

立派なわりに古いその家は主人の性格のためか綺麗にたもたれている

霧が邪魔で見えにくいが一つ一つの提灯に明かりが点り部屋の中は来るかも知れぬ客人のため温かく保たれているであろうそこはいつもいいにおいがした

臭いをたどれば黒い道服をまとった若い男にいきつく

「おや、そんなにいそいでどうしたんだい」

探してみれば近くの草むらにうずくまっているような姿勢でいたようで先に声をかけられた

いつも通り間の抜けたゆったりとした調子でそれでも走っていた私のことを見つけられることは流石仙人だ

「薬草摘みか
ご苦労なことだな」

かごで彼が何をしていたか分かった

人に化けなおしそういうと男は気まずそうな顔をした

「まあね」

「天界の人がどうしてそんなに薬がいるのだろうな
仙人も神獣も怪我などすることはほとんどないのに」

「みんな怖いんだ
きずつくことがないから余計に」

そういうとかごを抱えて立ち上がる

三つ編みが土にまみれていたが男はきにしていないようで楼閣に戻ろうと歩きはじめた

すかさず後を追う

側によれば見上げるほどに背が高いので足の方まで届く髪は私の身長よりも長いのではないかと思った